こんばんは。
心理カウンセラーの伊藤憲治です。
先日40代の男性からこんなご相談をお受けしました。
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オフィスの一室。
周りに数人の同僚がいる中で、声のトーンを落としてある部下に話しかけたんです。
「この書類、キミが作ったよね。ここの数字、少し間違っているから修正してほしいんだけど」
すると彼女は、少し間を置いてこう言います。
「私、作っていません。」
一瞬、何を言われたかわからなかったんです。
書類にはちゃんと彼女のサインがある。
誰がどう見ても、彼女が作ったものなのです。
「いや、ここにキミのサインがあるじゃない。キミが作ったんだよね?」
「知りません。誰かが勝手に書いたんじゃないですか」
怒っているわけでも、責めているわけでもない。
ただ、修正をお願いしただけなのです。
それなのに、目の前の彼女は、まるで自分とは無関係の話をされているかのような顔をしているんです。
強く追求するのも違う気がして、結局「じゃあいいよ」と引き下がってしまいました。でも、モヤモヤだけがすごく残ってるんです。
「あの子は、なぜああいうことをするんだろう。
性格なのかのでしょうか。それとも何か病気なのでしょうか。」
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この記事では、ミスを指摘されると事実そのものを否定する行動の裏にある心理を、行動分析と心理学の視点から整理していきたいと思います。
この記事でわかること
- ミスを否定する行動の裏にある心理メカニズム
- 「性格」なのか「特性」なのかの考え方
- 上司として関わるときのヒント
「私じゃない」という否認は、なぜ起きるのか
結論:これは「嘘」ではなく「防衛反応」である可能性が高い
精神分析の視点では、この種の否定を「防衛機制(ぼうえいきせい)」のひとつとして理解します。
防衛機制とは、強い不安や恐怖から自分の心を守るために、無意識に働く心の仕組みのことです。
意識的についている「嘘」とは、性質が異なります。
「否認」という防衛機制
防衛機制のなかでも、今回の事例に最も近いのが「否認(denial)」です。
否認とは、都合の悪い現実をなかったことにすることで、心の崩壊を防ごうとする反応です。
具体的にはこういう流れで起きます。
- ミスを指摘される
- 強い恐怖・羞恥心・不安が瞬時に生じる
- その感情に耐えられず、「自分がやった」という事実ごと消去しようとする
- 「私じゃない」という言葉が出る
この反応は、意志の力でコントロールしにくい部分があります。
なぜその女性はここまで強く否定するのか
結論:「ミスを認めること」が、自分の存在を否定されることと同じに感じられている可能性がある
心理学では、自己評価が不安定な人ほど、ミスへの恐怖が強くなることがわかっています。
一般的に「ミス=行動の失敗」として処理できる人は、比較的素直に認めることができます。
しかし「ミス=自分という人間の失敗」として受け取ってしまう人は、認めることで自分自身が崩れてしまうような感覚を持ちやすくなります。
今回の相談でいえば、
- 部長から指摘される=権威ある人物からの評価
- ミスを認める=「自分はダメな人間だ」という証明になってしまう
という図式が、無意識のうちに成立している可能性があります。
否認の強さは「恐怖の大きさ」に比例する
サインまで否定するほど強い否認が起きているということは、それだけ彼女の中で「認めること」への恐怖が大きいということを意味しています。
怒りっぽくない上司であっても、「指摘される」という状況そのものが、彼女にとって強いストレスになっている可能性があります。
「性格」なのか、「病気」なのか
結論:どちらとも言い切れない。ただし「意図的な嘘」ではない可能性が高い
防衛機制は、程度の差はあれ誰にでも備わっています。
特定の診断名とは切り離して考えることができます。
一方で、否認が非常に強く、日常的に繰り返される場合には、次のような背景が関わっていることがあります。
- 自己評価の著しい低さ(自己肯定感の問題)
- 過去の厳しい叱責体験やトラウマ
- 発達特性による感情調整の難しさ
ただし、これらは職場の上司が判断できるものではありません。
「性格か病気か」よりも、「どう関わるか」を考える方が現実的です。
上司として関わるときのヒント
「追求しない」という選択は、実は正しい
相談者の方は「あまり追求しても仕方がない」と判断されていました。
これは心理学的に見ても、適切な対応です。
否認が強い状態の人を追い詰めると、防衛反応がさらに強くなります。
感情的な対立が深まるだけで、問題は解決しません。
ミスではなく「次の行動」に焦点を当てる
「誰がやったか」ではなく「どう修正するか」に会話を移すことで、彼女の防衛反応を刺激せずに業務を前に進めやすくなります。
- 「この部分を修正してもらえますか」
- 「次回からこのポイントに気をつけてもらえると助かります」
責任の所在よりも、解決と予防に重点を置く関わり方です。
まとめ
ミスを否定する行動の裏にあるのは、悪意ではなく恐怖である可能性が高いです。
「私じゃない」という言葉は、心が崩れないように自分を守ろうとするサインとして読み解くことができます。
行動の意味が翻訳できると、相手への見方が少し変わります。
そして関わり方の選択肢も、自然と広がっていきます。
あの人の行動、もっと深く知りたい方へ
「なぜこんな行動をとるんだろう」という疑問は、一般論だけでは解決しないことがあります。
相手の育ってきた環境、これまでのやり取り、具体的な言動。
それらを総合的に分析することで、はじめて見えてくる心理があります。
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