こんばんは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今日は、「親が整えた環境を、子どもが『全部自分の実力』だと思ってしまう」というお悩みについて書いてみようと思います。
50代男性からのご相談です。
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「中学生の息子が発達障害と診断されています。
ADHDとASD。
これが関係しているのか知りたいんです。
親が子供のためにいろいろな環境を整えるのは当然なことだと思います。
ただ、親が整えた環境に対して、息子は全部『自分の実力』と思っているようなんです。
たしかに息子の努力なしでは成長はないと思っています。
でも、周りの人の力があって息子の実力が発揮できている、成長できているとは思っていないようなんです。
これはADHDやASDだからなのでしょうか?
それとも思春期はそういったものなのでしょうか?」
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「自分の力でできた」と思っている息子さんと、「環境を整えてきたのは自分たちなのに」と感じているお父さん。
その間にあるすれ違いに、もどかしさを感じていらっしゃるのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、これはADHD・ASDの特性と、思春期という発達段階の両方が関係している可能性が高いのです。
この記事でわかること
- 「他者の支援を認識しにくい」というADHD・ASDの特性のしくみ
- 思春期特有の心理と、発達特性がどう重なり合っているのか
- 息子さんに「支えがあったこと」を、否定せずに伝えていくヒント
「環境を自分の実力だと思う」のは特性なのか、思春期なのか
結論からお伝えします
どちらか一方ではなく、両方が組み合わさって起きていると考えられます。
ADHD・ASDの特性が「他者の支援に気づきにくい」という土台をつくり、その上に思春期特有の「自分の力で生きていきたい」という心理が重なることで、息子さんの中で「これは自分の実力だ」という認識が、より強く形作られているのです。
ADHD・ASDの特性から見える「支援への気づきにくさ」
①他者の視点に立つことが、認知的に大きな負荷になる
心理学には「視点取得」という言葉があります。
これは、他者がどう感じ、どう考えているかを想像する力のことです。
ASDの特性を持つ方は、この視点取得に困難を抱えやすいことが、心理学の研究で示されています。
これは「思いやりがない」ということではなく、他者の視点に立つという作業そのものに、多くの認知的なエネルギーを必要とするということなのです。
ただ、ここで大切にしておきたいことがあります。
視点取得が「一生できない」というわけではないのです。
ASDの方は、定型発達の人とは違う経路や時間をかけて、この力を獲得していくことが研究でわかっています。
今すぐ実感として理解できなくても、経験や言葉を積み重ねる中で、少しずつ育っていく力なのです。
息子さんが「親がいろいろ整えてくれている」という事実を知識として知っていても、
「それによって自分が助けられている」
と実感として結びつけることが、今はまだ難しい段階にある、と捉えるのが自然です。
②「今、目の前にある結果」に意識が向きやすい
ADHDの特性には、目の前のことに強く意識が向きやすい傾向があります。
テストの点数が良かった。
部活でうまくいった。
こうした「今、目の前で起きた結果」は強く実感されます。
一方で、「その結果の背景にあった環境や支援」という、時間をかけて積み重ねられたものは、実感として意識されにくいのです。
これは、息子さんが冷たいからではなく、ADHDの特性として「今、見えているもの」に注意が向きやすいという情報処理のクセによるものなのです。
③こだわりの強さが「自分の努力」を過大評価させることもある
ASDの特性のひとつに、自分の興味や努力に対する強いこだわりがあります。
このこだわりは、ものごとに深く取り組む力という、とても大切な強みでもあります。
ただ、その反面、「自分が積み重ねてきた努力」への意識が強くなりすぎると、その努力を支えていた周囲の存在が、相対的に意識の外に置かれやすくなることがあるのです。
思春期という発達段階も、無関係ではありません
「自分の力で生きていきたい」という心理が育つ時期
中学生の時期は、発達特性の有無にかかわらず、「親から心理的に独立したい」という気持ちが強くなる時期です。
親の支えを認めることは、ときに「自分はまだ子どもだ」と感じることにつながりやすく、思春期の心は、それを避けようとする傾向があります。
つまり息子さんの中では、ADHD・ASDの特性による「気づきにくさ」と、思春期特有の「認めたくない気持ち」が、重なって働いている可能性があるのです。
息子さんに「支えがあったこと」を伝えていくヒント
①努力を否定せず、支えを「追加」する伝え方をする
「それは環境のおかげだよ」と伝えてしまうと、息子さんの努力そのものを否定されたように感じてしまう可能性があります。
「あなたががんばったからこそ結果が出た。そしてその力を発揮できる場所を整えたのは、私たちでもあるんだ」というように、努力を認めたうえで、支えを「付け加える」伝え方が効果的です。
②具体的な場面を一緒に振り返る
抽象的に「支えてもらっている」と伝えるよりも、
「あの時、塾の先生に相談に行ったよね」
「あの環境を整えるのに、こういう準備をしたんだ」
というように、具体的な場面を一緒に振り返ることが効果的です。
ASDの特性を持つ方は、抽象的な概念より、具体的な事実のほうが理解しやすい傾向があります。
③今すぐ理解されなくても、焦らない
視点取得の力は、定型発達の人とは異なる経路や時間をかけて、育っていくものです。
「今は難しい」ということが、「ずっとできない」ということを意味するわけではありません。
「今、感謝の言葉が出てこない」ことを、すぐに結果として求めすぎないことも、長い目で見たときには大切な姿勢です。
ひとりで抱え込まなくていい
発達特性のある子どもを育てる中で、「伝わらないもどかしさ」を抱えている保護者の方は、たくさんいらっしゃいます。
その努力や工夫が、息子さんにすぐに伝わらなくても、決して無駄になっているわけではありません。
ご自身の気持ちを整理する時間として、セルフケアのツールを活用することもおすすめしています。
まとめ
- 「環境を自分の実力だと思う」のは、ADHD・ASDの特性と思春期特有の心理が重なって起きていることがある
- ASDの特性として、他者の視点に立つ「視点取得」に困難を抱えやすいことが研究で示されているが、定型発達の人とは異なる経路や時間をかけて育っていく力でもある
- ADHDの特性として、「今、目の前の結果」に意識が向きやすく、背景にある支援は意識されにくい
- 思春期は、発達特性の有無にかかわらず「親から心理的に独立したい」気持ちが強まる時期
- 努力を否定せず支えを「付け加える」伝え方や、具体的な場面の振り返りが効果的
「自分の力でできた」と思っている息子さんの気持ちも、ひとつの自然な発達の表れなのです。
とても苦しかったり悲しかったりすると思います。
でも焦らず、長い目で関わっていくことで、きっといつか気が付いてくれる時がきてくれますよ!
参考書籍
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