「復讐してやる」「財産分与で損しない」——そう言いながら、
心の奥では「ただ、戻ってきてほしい」と思っていませんか。
本音と向き合えない理由と、その苦しさから抜け出すためのヒントをお伝えします。
こんにちは。
心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今日は、実際にいただいたご相談をもとにした話をさせてください。
相談者の方のプライバシーに配慮して、内容は一部変えています。
📝 実際にあったご相談
あるご夫婦のことです。
ある日、夫が浮気をして家を出ていきました。
奥さんからのご相談でした。
ご主人の会社に電話をかけて居場所を調べたり、
探偵を使って行動確認をしたり、
浮気相手の素性を調べたり——。
「夫は今、何を考えているのか。
どこにいる可能性があるのか」
そういった質問が続くなかで、
言葉の端々から「戻ってきてほしい」という気持ちがにじんでいました。
でも、「復縁したいですか?」という問いには、絶対に「ノー」。
「復讐してやる」
「財産分与で絶対に損しない」
という言葉が返っきます。
この方は、自分の「本音」を、自分自身に対しても認めていませんでした。
でもそれが、状況をどんどん複雑にして、
苦しさを積み重ねていたのだと、私は感じました。
❓ なぜ、本音を言えないのか
「復縁したい」という気持ちを認めることが、
なぜこんなに難しいのでしょうか。
心理学と脳科学の視点から、その理由を考えてみました。
① 心が自分を守ろうとしている——「防衛機制」
心理学では、耐えられないほど辛い感情から自分を守るために、
心が無意識に働かせる仕組みを「防衛機制」と呼びます。
今回のケースで働いていたのは、主に2つです。
ひとつは「否認」。
「復縁したいなんて思っていない」と、本音をないことにしてしまう働きです。
現実を受け入れることが辛すぎるとき、心が自動的に行う自己防衛です。
もうひとつは「合理化」。
「復讐したい」「財産分与で損したくない」という別の理由を立てて、
本音の代わりに「それらしい動機」で行動を正当化する働きです。
これも、心が無意識に行うことがあります。
💡 心理学ポイント:防衛機制
防衛機制はフロイトが提唱した概念で、「心の自動保護システム」です。
否認・合理化は特に、深く傷ついたときに起きやすい反応です。
「本音を言えない自分がおかしい」のではなく、心が限界まで頑張っているサインです。
② 矛盾した気持ちを同時に持てない——「認知的不協和」
「裏切られた自分」と「戻ってきてほしい自分」。
この2つは、同時に存在すると矛盾しているように感じます。
心理学では、相反する認識を同時に持つと生じる不快感を「認知的不協和」と言います。
人は、この不協和を解消しようとして、どちらかの気持ちを打ち消そうとします。
「裏切られた私が復縁を望むのはおかしい」——
そう感じることで、「復縁したい」という気持ちのほうを消してしまう。
これが、本音を認められなくなる仕組みのひとつです。
💡 心理学ポイント:認知的不協和(フェスティンガー)
「矛盾した気持ちを持つこと」は、人間として自然なことです。
「怒っているし、悲しいし、戻ってきてほしい」——全部、同時に本物です。
どちらかを否定しなくていい。両方あっていい、と知るだけで楽になれます。
③ 脳が怒りを前面に出している——「アミグダラ・ハイジャック」
脳科学的に見ると、「復讐したい」という言葉の裏には、別のことが起きています。
強いストレスや恐怖を感じると、脳の「扁桃体(へんとうたい)」が過剰に活性化します。
扁桃体は、危険を感知して「戦うか逃げるか」を判断する部位です。
この状態になると、冷静な判断を司る「前頭前野」の働きが一時的に低下します。
これを「アミグダラ・ハイジャック」と言います。
文字通り、扁桃体が脳をジャック(乗っ取る)してしまう状態です。
怒りは、悲しみや恐怖よりも「行動のエネルギー」に変換しやすい感情です。
そのため、脳が自動的に怒りを前面に出し、
「悲しい」「怖い」「戻ってきてほしい」という感情を後ろに隠してしまうことがあります。
「復讐してやる」という言葉の奥に、
「悲しくて、怖くて、どうしたらいいかわからない」があるとしたら——
それは、脳が一生懸命あなたを守ろうとしているからかもしれません。
💡 脳科学ポイント:アミグダラ・ハイジャック(ゴールマン)
ダニエル・ゴールマンが著書「EQ」の中で提唱した造語で、扁桃体の過剰活性化によって前頭前野の機能が一時的に低下した状態を指します。神経科学の厳密な用語ではありませんが、「強い感情が理性的な判断を一時的に奪う」という現象を示すモデルとして広く知られています。
「あのとき冷静に判断できなかった」のは、意志の弱さではなく、脳の仕組みによるものです。
④ 裏切られた痛みは「本物の痛み」——脳が教えてくれること
「気持ちの問題だから、気合いで乗り越えれば大丈夫」——
そう言われることがありますが、脳科学はそれを否定しています。
研究によって、裏切りや別れによる「社会的な痛み」は、
身体的な痛みを感じるときと、脳の一部の領域(背側前帯状皮質・島皮質など)が重なることがわかっています。
「完全に同じ」ではありませんが、脳にとって心の痛みは、
身体の痛みと無縁ではない「本物の反応」なのです。
だから、「なぜこんなに辛いんだろう」と自分を責めなくていいのです。
それだけ、深い傷を負っているということです。
⑤ 長年の絆は「簡単には切れない」——脳内物質が生み出す愛着
「もう終わった関係なのに、なぜ忘れられないのか」——
これにも、脳科学的な理由があります。
長年一緒にいたパートナーとの絆は、「オキシトシン」をはじめとする複数の脳内物質によって強化されています。
オキシトシンは「愛着ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれ、
共に過ごした時間が長いほど、深く脳に刷り込まれます。
さらに、快楽や報酬に関わる「ドーパミン」や、
緊張・覚醒に関わる「ノルアドレナリン」なども複雑に絡み合い、
「忘れたくても忘れられない」という状態を生み出します。
関係が終わっても、これらの神経システムはすぐには切り替わりません。
「忘れたいのに忘れられない」のは、意志の弱さではなく、
脳がその人との絆を「大切なもの」として記憶し続けているからです。
💡 脳科学ポイント:オキシトシンと愛着
オキシトシンはスキンシップや共に過ごした時間によって分泌され、愛着の形成に深く関わります。
ただし「忘れられない」という状態は、オキシトシン単独ではなく、ドーパミン報酬系やノルアドレナリンなど複数の神経システムが関与しています。
「なぜこんなに引きずるのか」ではなく、「それだけ本気で愛していたのか」と読み替えてみてください。
❓ 本音を隠すことで、何が起きるのか
「復縁したくない。ただ、情報が欲しいだけ」——。
この前提でいると、行動の目的がどこにあるのかが、自分でもわからなくなっていきます。
相手の行動を調べる。浮気相手を調べる。
これらに費やすエネルギーは膨大です。
しかも、目的が「復縁」なのか「復讐」なのかによって、
やるべきことは全く変わります。
本音が定まっていないまま動き続けると、
どこへ向かっているのかわからない旅を続けるようなもの。
疲れ果てるのに、なぜか目的地に近づかない、という状態になりやすいのです。
また、「探偵を使う」「会社に電話する」といった行動は、
場合によっては法的なトラブルに発展するリスクもあります。
本音ではなく怒りに突き動かされている状態では、
そのリスクに気づきにくくなってしまいます。
🌱 苦しさから脱するための、最初の一歩
「本音と向き合う」と言うと、
とても勇気がいることのように感じるかもしれません。
でも、最初の一歩はとてもシンプルです。
ステップ1:感情を「裁かずに」書き出す
「復縁したい」「戻ってきてほしい」「悲しい」「怖い」——。
どんな感情でも、良い・悪いのジャッジをせずに、紙に書いてみてください。
誰かに見せるものではありません。自分だけの場所に、正直に。
書いてみると「あ、私はこんなことを感じていたのか」と、
自分でも気づいていなかった本音が、静かに浮かび上がってくることがあります。
ステップ2:「もし誰にも知られないとしたら?」と自問する
周りの目も、プライドも、一切関係ない世界で——
「本当はどうしたいのか?」を自分に聞いてみてください。
「恥ずかしい答え」でもかまいません。正解は、あなたの中にしかありません。
ステップ3:「本音」と「行動」を切り離して考える
「復縁したい」という本音を認めることは、
すぐに復縁しなければならない、ということではありません。
本音を知ることと、行動することは、別のことです。
まず「自分が本当に望んでいること」を知ることが先。
その上で「では、どう動くか」を冷静に考える。
この順番を守るだけで、行動の精度は大きく変わります。
ステップ4:信頼できる人、または専門家に話す
本音は、一人で向き合おうとすると、
途中で「やっぱり言いたくない」という防衛が働きやすくなります。
信頼できる友人でも、カウンセラーでもいい。
「誰かに話す」という行為が、本音を受け入れるための安全な場を作ってくれます。
💡 大切なこと
「復縁したい」という気持ちは、弱さではありません。
愛していた人を愛し続けることは、自然なことです。
その本音を認めることが、どちらの方向に進むにしても、必ず力になります。
📖 おわりに
この記事を読んでくださっているあなたは、
もしかしたら今、ご相談者の方と似た状況にいるかもしれません。
「本当はどうしたいのか」「この苦しさはどこからくるのか」——
それが自分でもわからなくなったとき、一番しんどいのは、
感情の矛先が自分自身に向いてしまうときです。
どうか、本音を持っている自分を責めないでくださいね。
「戻ってきてほしい」と思う自分を、恥じないでください。
その気持ちは、あなたが真剣にその人と向き合ってきた証拠です。
本音を知ることが、前に進む力になります。
復縁という選択でも、新しい一歩という選択でも——
どちらにしても、あなたの本音が出発点になるはずです。
何か思うことがあれば、いつでもご相談くださいね。
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