― 発達特性のある子の「責任感」を育てるために ―
こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今回は、30代のお母さんから寄せられたご相談をご紹介します。
小学校高学年の娘さんが発達障害(はったつしょうがい)の診断を受けており、
家族で飼っている愛犬のお世話を通して“責任感”を育てようとされているそうです。
しかし、ご飯をあげることはできても、
うんちの片づけや飲み水の交換といった部分は、何度言ってもやらない。
「ママ!うんちしてる!」と報告だけして、自分では行動しない。
「どうすれば、決められた役割をできるようになるのか?」
というご相談です。
💬 ご相談内容
娘が小学校高学年になったときに発達障害の診断を受けました。
それから、愛犬のお世話を通して“責任を持つこと”や“自分の役割を果たすこと”を学んでほしいと思い、
お世話の分担を決めました。
娘は「ごはんをあげる」ことはするのですが、
「うんちの片づけ」や「お水の交換」は何度言ってもやりません。
愛犬がうんちをすると「ママ!うんちしてる!」と報告だけして終わりです。
どうすれば、決められた役割を自分からできるようになるのでしょうか?
🧠 回答:「やる気がない」のではなく、「やり方の見通し」が立っていない
まず最初にお伝えしたいのは、
お子さんが“やらない”のではなく、**“できるように組み立てられていない”**ということです。
発達特性のある子どもは、
「やることの順序」「結果のイメージ」「面倒な過程」を同時に処理するのが苦手です。
つまり、「ご飯をあげる」は“終わりが明確で、達成感を感じやすい”。
一方、「うんちの片づけ」や「水の交換」は“手順が複雑で、報酬(うれしさ)が少ない”。
そのため、行動としてつながりにくくなっているのです。
🌿 発達特性と「実行機能(じっこうきのう)」の関係
脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)には、
「実行機能(Executive Function)」と呼ばれる領域があります。
これは、
- 計画を立てる
- 優先順位を決める
- 行動を切り替える
- 終わらせる
といった“行動の司令塔”のような働きをします。
発達特性のある子では、この機能が未成熟なため、
「やる」と「できる」の間に大きなギャップが生まれやすいのです。
💡 「ごはんはできるけど、片づけはできない」理由
① 「行動の終わり」が見えにくい
ごはん → 「入れたら終わり」。
うんち掃除 → 「袋に入れる・捨てる・手を洗う」など複数工程。
子どもにとっては、これだけで難易度が3倍に感じます。
② 「イヤな感覚」が強く残る
嗅覚や触覚の過敏(かびん)さがある子では、
においや感触への不快感が強く、避けようとすることがあります。
この場合、「やりたくない」ではなく「やると苦痛」という感覚的な問題です。
③ 「成功体験が少ない」
やった後に「できた!」という達成感が感じられないと、
脳が“行動の報酬”として覚えません。
結果、「言われたらやる」「でも自分では思い出せない」になっていきます。
🐾 日常でできる実践的サポート方法
🪴 1. 「見える化」して流れを整理する
言葉ではなく、視覚で理解できる工夫を取り入れます。
- 写真やイラストで“お世話の手順ボード”を作る
- 手順を「1. ごはん」「2. 水」「3. うんち」など番号で表示
- 終わったらマグネットやチェックシールを貼る
“見てわかる”仕組みは、前頭前野の負担を減らし、行動を自立させます。
🐕 2. 「最初の一歩」だけを一緒にやる
「全部やらせる」よりも、「最初の一手」を一緒に行うのがポイントです。
たとえば:
「じゃあ今日はママが袋を持つね。あなたはスコップで入れてみよう」
最初の一動作を成功体験に変えることで、
“できる自信”が行動の動機になります。
☀️ 3. 「報酬」は“達成の快感”で与える
「できたらお小遣い」「できたら褒める」も効果的ですが、
実は最も長続きするのは“心の報酬”です。
「ラブくん、きれいにしてもらって気持ちよさそうだね」
「助かったよ、ありがとう」
“誰か(犬)が喜ぶ”体験は、脳の報酬系を刺激します。
**「行動→他者の笑顔→うれしい」**というループができると、
自然と自発的な行動が増えていきます。
💬 4. 「できなかった日」を責めない
「やらなかった=サボった」と捉えず、
「今日は忘れちゃったね」「一緒にやろうか」でOKです。
行動の定着は、“できる日”よりも“できない日の関わり”で決まります。
責められると、脳は「その行動=イヤなこと」と覚えてしまうため、
ますます避けるようになります。
🌸 5. 「報告してくれる」ことをまず認める
「ママ!うんちしてる!」と報告するのは、
“気づいた”という大事な一歩です。
「教えてくれてありがとう。次はどこまでやってみようか?」
と、“次のステップ”を一緒に考えていくことで、
行動の範囲が自然に広がっていきます。
🧩 6. 「役割」よりも「意味」を共有する
「うんちを片づけるのはあなたの担当」ではなく、
「ラブくんが気持ちよく過ごすために必要だね」という目的の共有を大切に。
発達特性のある子どもは、「なぜそれをやるのか」の理解があって初めて行動がつながります。
🧠 心理学的背景:「行動の自立」は“段階的に育つ”
行動心理学では、「行動の形成(シェイピング)」という考え方があります。
これは、「完璧にできる」ことを目指すのではなく、
**“少しずつできる範囲を広げていく”**という発達支援の基本です。
たとえば:
1️⃣ 報告できる(→OK)
2️⃣ 道具を持てる(→OK)
3️⃣ 少し手伝える(→OK)
4️⃣ 最後までできる
この“段階の成功”を積み重ねていくことで、
「私はできる」という自己効力感(じここうりょくかん)が育ちます。
☕ 親が意識したい3つの姿勢
🌷 ① 「やらせる」より「引き出す」
行動を強制するより、
やる気が出やすい形に整えることが大切です。
「できない」には必ず理由があります。
その理由を見つけて“できる形に変える”のが親のサポートです。
🌼 ② 「失敗は学び」として扱う
やり忘れた、こぼした、途中でやめた――
これらも大切な学びのプロセスです。
「どうしたら次はうまくいくかな?」
と一緒に振り返る時間を持つことで、
「挑戦しても大丈夫」という心理的安全性が生まれます。
🌙 ③ 「責任感」は“信頼される経験”から育つ
「あなたならできる」と任せてもらえることは、
子どもにとって何よりの自信になります。
たとえ小さな仕事でも、
「信じて任せる」という姿勢が、
“責任を果たす力”をゆっくりと育てていきます。
🌸 まとめ
- 「やらない」は「できない」のサイン。見通しと達成感を整える。
- 行動を“見える化”して、成功体験を積み重ねる。
- 報告できたら第一歩。叱らず“次の段階”を一緒に考える。
- 「意味の共有」が行動のモチベーションを高める。
- 責任感は“信頼される体験”の中で少しずつ育つ。
💗 読者へのメッセージ
「なんでやらないの?」とつい言いたくなるのは、
“ちゃんと育てたい”という愛情の裏返しです。
けれど、子どもが本当に育つのは、
“できた瞬間を一緒に喜べたとき”。
焦らず、怒らず、
「今日できた一歩」を大切に積み重ねていきましょう。
お世話を通して、
きっと親子の信頼も深まっていきます。
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