🌏 ICDとDSM ― 発達障害の「診断基準」はどう違う?

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― 世界の分類の違いをやさしく理解する ―

こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。

今回のテーマは、よくいただくご質問のひとつです。

「発達障害の診断って、ICDとかDSMとか書いてあるけど、違うものなんですか?」

という疑問。

同じ「診断」でも、医師や心理士が使う基準書には ICDDSM の2種類があり、
どちらも「世界的に認められている」ものですが、目的や使われ方に違いがあります。

今日はこの2つを、なるべくやさしい言葉で整理していきます。


🧭 ICDとDSM、何が違うのか?

まずはざっくりとした比較から見てみましょう。

観点ICD(国際疾病分類)DSM(精神疾患の診断と統計マニュアル)
制定機関世界保健機関(WHO)アメリカ精神医学会(APA)
最新版ICD-11(2019採択、2022施行)DSM-5-TR(2022刊行)
主な目的世界共通の病名・保険・統計精神科臨床・研究・教育
対象範囲すべての病気(身体・精神)精神・行動・発達の障害のみ
使用範囲医療・行政・保険請求・統計臨床現場・心理検査・研究
詳細さシンプルで幅広く定義症状ごとに細かい診断基準

つまり、
🔹 ICDは「国際的な病名コード」
🔹 DSMは「診断のためのマニュアル」

という役割の違いがあります。


🧠 発達障害は「神経発達症群」として共通化されている

ICDとDSMのどちらでも、
発達障害(はったつしょうがい)は共通して
**「Neurodevelopmental Disorders(神経発達症群)」**というカテゴリーに分類されています。

これは、発達障害を「性格」や「しつけの問題」ではなく、
脳の発達や神経機能の特性として理解するという現代的な考え方です。


📘 DSM-5 / DSM-5-TRにおける分類

DSMでは、次のような分類で整理されています。

  1. 知的能力障害(Intellectual Disability)
  2. コミュニケーション症群(言語や発音の発達に関する障害)
  3. 自閉スペクトラム症(ASD)
  4. 注意欠如・多動症(ADHD)
  5. 特異的学習症(SLD)
  6. 運動症群(発達性協調運動障害など)
  7. その他特定不能の神経発達症

DSMは臨床現場で使いやすいよう、
それぞれの症状をA~Eの診断基準で明確に示しています。

たとえばADHDでは、

  • 「注意の持続が難しい」
  • 「多動・衝動性の症状が複数ある」
  • 「12歳以前から続いている」

など、具体的な条件が列挙されます。


🌐 ICD-11における分類

ICD-11では「神経発達症群(6A00〜6A0Z)」として、次のように整理されています。

  • 6A00 知的発達症
  • 6A01 発達性言語障害
  • 6A02 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 6A04 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 6A05 発達性学習症
  • 6A06 発達性運動協調症
  • 6A0Y 他に特定されない神経発達症
  • 6A0Z 詳細不明の神経発達症

ICDは「国際的なコード」で分類されるため、
医療機関や保険、行政の記録ではこちらが正式な名称として使われます。


🔍 DSMとICDの違いをもう少し具体的に

項目DSM-5 / DSM-5-TRICD-11
目的精神科臨床・研究向け国際的分類・行政統計用
表現の細かさ詳細な診断基準・チェックリスト型記述的・柔軟な定義
ASD(自閉スペクトラム症)2軸(社会的コミュニケーション+限定的行動)で診断同様だが、重症度の段階づけをより柔軟に運用
ADHD(注意欠如・多動症)「12歳以前からの症状」を明記「発達初期から」と表現(年齢制限を緩和)
学習障害読字・書字・算数をまとめて「特異的学習症」と呼ぶ各分野を個別にコード分類
合併症(併存)の扱いASDとADHDの併存を正式に認める(DSM-5以降)ICD-11でも併存可能と明示
用語の中立化“精神遅滞”→“知的能力障害”に改訂“知的発達症”として同様の方向へ

💬 現場ではどう使われているのか?

実際の臨床現場では、両方を使い分けるのが一般的です。

  • 医師が診断書を書くとき → ICDコード(正式病名)
  • 心理士やカウンセラーが評価・支援を組み立てるとき → DSM基準(臨床的な理解)

たとえば、「ASD(6A02)」というICDコードが付与されると同時に、
DSMの診断基準でどの特性が強いかを確認し、
支援方針を具体化していく、という流れです。


🧩 併存の考え方にも進化がある

かつては「自閉症とADHDは同時には診断できない」とされていましたが、
DSM-5(2013)以降では正式に併存(けいそん)可能とされ、
ICD-11でも同じ方針になりました。

これは、実際に多くの子どもが複数の特性を併せ持つことが研究で明らかになったためです。


📚 歴史的な流れを簡単に

  • ICD:19世紀末から続く国際的な疾病分類(WHO管轄)
  • DSM:1952年、米国精神医学会が独自に作成
  • **DSM-III(1980)**で科学的・行動的診断モデルを採用
  • 以後、DSMとICDは整合を強め、現在は9割以上が一致

つまり今は、「違う基準」というよりも
**「使う目的が違う」**という理解が適切です。


🌿 どちらを基準にしても「発達障害=特性を理解すること」が目的

発達障害の診断とは、
「ラベルを貼ること」ではなく
「支援の出発点を見つけること」です。

ICDでもDSMでも、
重要なのは“その人がどんな特性を持ち、何に困っているのか”を理解すること。

診断の違いにとらわれすぎず、
日常生活の中で支えやすい環境を整えることがいちばん大切です。


🕊️ 今後の流れ(2025年以降)

  • ICD-11が各国で本格的に運用開始
  • DSMはDSM-5-TR(テキスト改訂)で軽微な表現修正
  • 両者は今後も整合性をさらに高める方向
  • 日本でも、2026年前後に行政・教育分野へのICD-11導入が進行中

つまり、
**「どちらを使うか」よりも「どう支援につなげるか」**の時代へと移っています。


💗 読者へのメッセージ

ICDとDSMは「診断を整理するための道具」であり、
子どもの個性や価値を決めるものではありません。

診断名よりも大切なのは、
その子がどんな場面で安心できるか、
どうすれば力を発揮できるかを見つけることです。

発達障害という言葉にふれると、
不安になる方も多いかもしれません。

でも――
ICDもDSMも、もとは「理解するための地図」です。
地図は、人を縛るためのものではなく、
“その人に合った道”を見つけるためのものです。


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