“やってはいけないこと・やった方がいいこと”
― 親子で苦しまないために知っておきたい心理学の視点 ―
こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治(いとうけんじ)です。
前回の記事では、
「ADHDの親が仕事や家庭でぶつかる困りごとと、実践的な対処法」
についてお話しました。
今回はその続きとして、
子どもの発達特性に向き合うときの“やってはいけないこと・やった方がいいこと”を深掘りします。
🌼 はじめに ― ADHDの親だからこそ、ぶつかりやすい壁がある
ADHDの親は、多くの場合、
自分が過去に苦しんだ経験や傷を抱えながら子育てに向き合っています。
その結果――
子どもの行動に自分を重ねてしまい、
必要以上に落ち込んだり、
「これではいけない」と焦りが出たりします。
この“親の傷”と“子どもの困りごと”が重なることで、
独特の苦しさが生まれるのです。
だからこそ、
「これはやってしまうとつらくなる」
「これは取り入れるほど親子が楽になる」
という視点で整理していきます。
❌ ADHDの親が“やってはいけないこと”
❌ 1. 子どもに自分の「できなかった過去」を投影する
ADHDの親は、自分がつらかった経験が強く残っていることが多いです。
そのため、
子どもが同じような悩みを見せると
- 「自分と同じ苦しみをさせたくない」
- 「また同じ道を歩ませてしまう」
と、過去の感情が一気に蘇ってしまうのです。
でも、
子どもはあなたのコピーではなく“別の人生”を歩んでいます。
あなたがつらかったのは、
“その時代に支援や理解が少なかったから”であって、
子どもはまったく別の環境で育っています。
▶ 過去の自分と子どもを重ねないこと。
それが、親としての心の解放につながります。
❌ 2. 「こうあるべき」を押しつける
ADHDの親は、自分の苦労から
- こうしておけば苦しまない
- 同じ失敗をさせたくない
という気持ちが強くなります。
しかし、子どもの特性や発達の段階に合わない
「頑張らせ方」「強要」が入ると、
親子ともに苦しくなります。
▶ 子どもは“別の発達ペース”で成長していく。
▶ 「できるようになる時期」が必ず来ます。
焦らず、段階を見守ることが大切です。
❌ 3. 感情的に叱る/長く説教する
ADHDの子どもにとって
「長い言葉」はほとんど届きません。
また、叱られると
“恥”の感情や“自己否定”が非常に強く出やすい脳の構造があります。
そのため
- 長く叱る
- 感情的に説明する
- 正論をぶつける
これらは逆効果になります。
▶ ADHDの子どもは「短い言葉」「一文」で届く。
▶ 感情が落ち着いてから伝える方が圧倒的に効果的。
❌ 4. 努力や成長を見逃してしまう
ADHDの子どもは
「行動の量」ではなく「行動のきっかけ」が大切です。
- 1分座れた
- 5分宿題を始められた
- いつもより早く準備できた
こうした“成長の種”を見逃すと、
子どもは「どうせ自分はできない」と思い込みやすくなります。
▶ 「できた瞬間」を必ず拾うこと。
これは親子の信頼を守るために最重要です。
❌ 5. “できた日”と“できない日”を同じ基準で考える
ADHDは、
その日の体調・刺激量・睡眠・ストレスでパフォーマンスが大きく変わります。
つまり
同じ子どもでも“今日と明日”で全く違う脳状態になるのです。
これを知らないまま
- 昨日はできたのに
- なんで今日はできないの?
- さぼっているの?
と見てしまうと、お互いが苦しくなります。
▶ 状態は毎日ちがう。
▶ 今日できないことは、明日できることもある。
⭕ ADHDの親が“やった方がいいこと”
⭕ 1. 子どもと「並べる」距離感を意識する
ADHDの子どもは、
上から指示をされるよりも
「一緒に」「並んでやる」
という関係のほうが行動が安定します。
たとえば
- 「一緒に宿題しようか」
- 「隣でパパ(ママ)も仕事するね」
- 「一緒に片付けようか」
“協力スタイル”は信頼や安心につながり、
自己肯定感も育ちます。
⭕ 2. 子どもの「困りごと」を“仕組み”でサポートする
ADHDの子どもは「覚えておく」「見通す」が苦手です。
そこで必要なのは 環境調整。
- 時間割を見える場所に貼る
- 指示は短く
- タスクを細かく
- 1つ終わったらチェック
- 朝のルーティンを固定する
- 机周りの物を減らす
これらは「努力」ではなく「仕組み」であり、
特性に合わせた“脳に優しい環境”です。
⭕ 3. 「できた瞬間」を必ず言語化する
ADHDの子どもは“褒められた記憶”が残りにくい分、
「今この瞬間」の声かけが強く効きます。
- 「5分間座れたね、すごい」
- 「今の言い方、優しかったよ」
- 「始められたの、えらいね」
評価ではなく“事実としての描写”が大事です。
⭕ 4. 感情的な瞬間は“今は話さない”
ADHDの子どもは、怒られている最中は
まったく聞けません。
脳が“防御モード”に入るためです。
効果の高い順番
- その場を落ち着かせる
- 10秒〜1分の休息
- 感情の整理
- 短く伝える
- 未来の提案をする
この流れが一番スムーズです。
⭕ 5. 親が自分の特性を理解し、整えることが最大の支援
ADHDの親が、
自分を責めず、自分のペースを理解できるようになると、
その“生きている姿勢”そのものが、子どもにとっての支えになります。
- 失敗しても落ち込まない
- 毎日同じじゃなくていい
- 無理をしなくてもいい
- 困ったときは工夫すればいい
こうしたメッセージは、
言葉以上に子どもに深く届きます。
🌷 まとめ ― 「親だから頑張る」ではなく「親子で歩く」
今回の内容を短くまとめると――
❌ やってはいけないこと
- 子どもを自分の過去と重ねる
- こうあるべきを押す
- 感情的に叱る
- 成長の種を見逃す
- 毎日同じ基準で評価する
⭕ やった方がいいこと
- 親子で“並んでやる”
- 仕組みでサポートする
- 成功を小さく拾う
- 感情が落ち着いたタイミングを選ぶ
- 親が自分を整えていく
ADHDの親子は、
互いの特性が似ているからこそのつらさもありますが、
その分、
**互いを深く理解できる“特別な親子関係”**にもなれます。
あなたの存在は、
子どもにとって唯一無二の安心そのものです。
焦らず、一歩ずつ。
“親子で一緒に育っていく”という気持ちで、
これからも歩んでいきましょう。
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