― 発達特性をもつ子どもの進路を考えるための視点 ―
こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今回は、50代のお父さんから寄せられたご相談をご紹介します。
小学生の息子さんがいま「普通級」に通っていて、
先生とのやりとりや家庭での様子を見ているうちに、
「支援級に行ったほうがいいのか」「障害者手帳を受けたほうがいいのか」――
そんな選択の岐路に立っている、という内容です。
💬 ご相談内容
小学生の息子がいます。
現在は普通級に通っていますが、
先生から「授業中に集中が続かない」「周囲とのペースが合わない」などの話を聞くことがあります。
家でも、宿題に時間がかかったり、
身支度がうまくできなかったりと、サポートが必要な場面が多いです。
このまま普通級で頑張るべきなのか、
それとも支援級に移るほうがいいのか。
また、将来的な支援を考えると、
「障害者手帳」を申請しておいたほうがいいのか悩んでいます。
“普通”と“障害”、どう考えればいいのでしょうか?
🧠 回答:「普通」と「障害」は“線”ではなく“グラデーション”
このご相談、とても多くの親御さんが抱えるものです。
まず大前提として、
「普通」と「障害」は明確に分かれる線ではありません。
発達特性(はったつとくせい)は、
人それぞれの“脳の働き方の個性”のひとつであり、
その特性が“どの場面で困りやすいか”によって、必要な支援が変わってきます。
つまり、
「支援級に行く=重い」ではなく、
「その子に合った学びの環境を整える」という選択なのです。
🌿 「支援級」に通うことの意味
支援級(特別支援学級)は、
少人数でゆっくりとしたペースで学べる環境です。
授業の理解や行動のサポートだけでなく、
「自己肯定感(じここうていかん)」を育てるための支援がしやすいというメリットがあります。
発達心理学の研究でも、
「できた!」という成功体験が多い環境にいる子どもほど、学習意欲が高まりやすいことが示されています。
そのため、支援級への転籍は“学力の問題”ではなく、
「自分らしく学ぶ場を選ぶ」という考え方が大切です。
🏫 「普通級」と「支援級」、それぞれの特徴
| 観点 | 普通級 | 支援級 |
|---|---|---|
| 学習ペース | 学年全体と同じ | 個別・小集団でゆっくり |
| サポート | 教師一人で全員を見る | 教師+支援員で個別対応しやすい |
| 交流 | 同年代が多い | 学年を越えた関わりがある |
| 評価方法 | 学年基準 | 個別の到達度を重視 |
| メリット | 社会性・刺激が多い | 自信を育てやすい・安心できる |
| デメリット | 比較・プレッシャーが強い | 進学時の選択肢が限定される場合も |
大切なのは、「どちらが良い・悪い」ではなく、
**「今の息子さんに合っているかどうか」**です。
🧩 「支援級への転籍」は“途中でもできる”
多くの保護者が「一度支援級に行くと戻れないのでは」と不安になりますが、
実際には、年度途中でも普通級⇄支援級の変更は可能です。
- 状況に合わせて学期単位で見直せる
- 「交流及び共同学習」という形で、普通級の授業を一部受けることもできる
- 支援級から普通級へ戻るケースもある
つまり、“一方通行の選択”ではありません。
お子さんの様子に合わせて柔軟に考えていくことができます。
※お住まいの市区町村によって制度がいろいろあるので一度ご確認してみてくださいね!
🌸 「障害者手帳」の目的を正しく理解する
次に、障害者手帳(しょうがいしゃてちょう)についてです。
精神障害者保健福祉手帳や療育手帳などがありますが、
どちらも「支援を受けやすくするための制度」であって、
**“レッテルを貼るものではない”**ということを理解しておくことが大切です。
💬 手帳を持つことで得られる主な支援
- 医療費・交通費の助成
- 学校や地域での配慮(支援員・通級など)
- 福祉サービスの利用(放課後デイなど)
- 将来的には就労支援・手当・所得控除
手帳を持つこと自体が目的ではなく、
**「必要な支援を受けやすくするためのパスポート」**と考えるとよいでしょう。
🌼 「普通」や「障害」という言葉の奥にある“社会の枠組み”
社会心理学では、
「普通」とは“多数派の基準”を意味します。
しかし実際の人間の特性は、
誰もが少しずつ違う“スペクトラム(連続体)”の上に存在しています。
発達障害(神経発達症群)も、
「できない」「問題」ではなく、
**「脳の得意・不得意の偏り」**を意味します。
そのため、
“普通にする”よりも、“自分に合ったやり方を選ぶ”ほうが、
長い目で見て本人の力を最大限に活かすことにつながります。
☕ 親が考えるうえで大切な3つの視点
① 「環境を変える」=「本人を助ける」
「普通級でがんばらせたい」と思う気持ちは自然ですが、
環境が合わずに毎日苦しんでしまうと、
自己肯定感が下がり、学ぶ意欲も失われてしまいます。
合わない環境を我慢させるより、
合う環境を選ぶことが本人の成長を守ることです。
② 「将来を長い目で見る」
支援級や手帳の利用は、“今困っていること”へのサポートだけでなく、
将来の選択肢を広げるためのステップでもあります。
高校・専門学校・就労支援・一般就労――
支援のネットワークを早めに整えておくと、
大人になってからのサポートにつながりやすくなります。
③ 「親自身の安心も大切に」
「どちらを選んでも後悔したくない」と感じるのは当然です。
でも、完璧な選択肢はありません。
むしろ、“その時点で最も安心できる道”を選び、
必要に応じて見直していく柔軟さが大切です。
🧠 支援を選ぶときに意識したい「3つのチェックポイント」
1️⃣ 学習・生活の困りごとが“本人の努力では解決できない”状態になっていないか
→ 周囲のサポートがなければ苦しい場合、環境調整が必要。
2️⃣ 本人が自信を失い、学校への不安が強くなっていないか
→ 自己肯定感が低下しているときは、支援的環境で回復を。
3️⃣ 家庭が疲弊していないか
→ 親が安心して支えられる環境を整えることも大切。
🌷 実際の選択をする前にできること
💬 1. 教師やコーディネーターに相談する
担任の先生・特別支援コーディネーター・スクールカウンセラーなど、
学校内のチームと連携しましょう。
「どうすれば安心して学べるか」という観点で話し合うのがポイントです。
🧩 2. 通級指導教室を検討する
普通級に在籍しながら、週に数時間だけ支援的な学習を受けられる制度です。
「いきなり支援級に変えるのは不安」というときに、
中間的な選択肢として活用できます。
🌱 3. 医療機関での意見書・発達検査を活用
WISC検査や心理検査を受けることで、
「どの力が得意で、どこが苦手か」を可視化できます。
支援方針を立てる上での大切な資料になります。
🌸 まとめ
- 「普通」と「支援」は線ではなくグラデーション。
- 支援級は“特別な場所”ではなく、“安心して学べる環境”。
- 手帳は“支援のパスポート”であり、“ラベル”ではない。
- 環境を変えることは、本人の力を奪うのではなく“伸ばす”こと。
- 迷うことは、それだけ真剣にお子さんを想っている証。
💗 読者へのメッセージ
「普通か支援か」「取るか取らないか」――
この2択に悩むのは、
“どちらを選んでも我が子を守りたい”という愛情の証です。
大切なのは、「正しい選択」ではなく、
**「お子さんが笑顔でいられる選択」**です。
そして、その選択はいつでもやり直せます。
悩みながら、一歩ずつ一緒に考えていけば大丈夫です。
お子さんのペースを信じて、
今日も安心できる一日を積み重ねていきましょう。
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