― 多動性の理解と、成長を支える親の関わり方 ―
こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今回は、50代のお父さんから寄せられたご相談をご紹介します。
小学生の息子さんが家の中で走り回ったり、
学校でも落ち着いて席に座っていられないと言われている――
という内容です。
親としては「発達障害だから仕方がない」と思いながらも、
「将来このままだとどうなるのか」「コントロールできるようになるのか」と不安に感じる方も多いでしょう。
ここでは、発達心理学や脳科学の視点から、
“多動”の正体と成長を支える関わり方を詳しく解説します。
💬 ご相談内容
小学生の息子がいます。
家の中でいつも走り回っています。
学校の先生からも「落ち着きがなく、席でじっとしていられない」と言われています。
発達障害があるため仕方がないとは思っているのですが、
このような多動的なところは、
将来コントロールできるようになるのでしょうか?
🧠 回答:「多動」は“悪いこと”ではなく、“成長の途中段階”
まずお伝えしたいのは、
「多動」は病気ではなく、脳の発達の一部だということです。
心理学的には、
落ち着きがない、動きが多いというのは「行動特性(こうどうとくせい)」の一つであり、
発達の過程で**脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)**が成熟していくにつれて、
徐々にコントロールできるようになります。
つまり、今は“未発達な時期にある”というだけで、
将来にわたってずっとこのままというわけではありません。
🌿 「多動性(たどうせい)」とは?
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、
ADHD(注意欠如・多動症)の特徴のひとつとして「多動性」が挙げられています。
多動とは、単に「動きすぎること」ではなく、
**「刺激を求めやすく、行動でエネルギーを発散する特性」**を指します。
たとえば:
- じっとしているより、体を動かしているほうが安心する
- 考える前に体が動く
- 思いついたらすぐ行動に移したくなる
これらは、脳の情報処理が“外向き”に働いている状態です。
💡 「多動」は“エネルギーの向き”の問題
発達神経科学の研究では、
多動性のある子どもは、脳のドーパミン(意欲や集中を司る物質)が
安定的に分泌されにくい傾向があるとされています。
そのため、
「体を動かす」「走る」「声を出す」といった行動を通して、
脳内のバランスを自分で整えようとしているのです。
つまり、動き回ることは、
本人なりの“セルフレギュレーション(自己調整)”の方法でもあります。
🌱 「多動」が落ち着いていく理由
多くの研究や臨床データによると、
ADHDの子どもの多動性は、成長とともに徐々に減少する傾向があります。
- 小学校低学年:動きで発散するタイプ(体の多動)
- 中学〜高校:頭の中で考えが多いタイプ(思考の多動)
- 成人期:自分で行動を選べるようになり、社会的に調整される
つまり、「多動=一生続く」ではなく、
**“外に出ていたエネルギーが、内側の集中力や創造性に変わっていく”**のです。
🎒 家庭でできる具体的なサポート方法
🏃♂️ ① 「動いていい時間と場所」を決める
「走らないで!」と止めるより、
「ここなら動いても大丈夫」という環境設定が効果的です。
- 家の中では“走ってOKゾーン”を作る
- 家の外では“全力で走れる場所”を一緒に探す
- 勉強前に「3分間のジャンプ」など、動きでリセット
禁止より、発散のルール化。
これが一番ストレスを減らす方法です。
🎨 ② 「体の動きを“表現”に変える」
多動の子は、運動神経や表現力に優れていることも多いです。
- ダンス、スポーツ、楽器、リズム遊び
- LEGO(レゴ)やプラモデルなどの集中型遊び
- “動きを創造に変える”活動
「うるさい子」ではなく「エネルギーの高い子」と捉え直すと、
その力を“表現”に変えることができます。
🕊️ ③ 「止める」ではなく「切り替えを教える」
「やめなさい!」よりも、
「ここまでで一回ストップしよう」「3分休憩!」と伝えましょう。
脳の前頭前野の働きは、
“止める”より“切り替える”ほうが発達しやすいことがわかっています。
**「やめる練習」ではなく「次に移る練習」**を意識してみてください。
📚 ④ 「落ち着ける時間」を“短く”つくる
長時間じっとしているのは難しいため、
- 宿題は10分ごとに区切る
- 授業の後に動く時間を入れる
- 「静」と「動」のバランスをとる
これによって、集中の“リズム”が作られます。
☀️ ⑤ 「動きながら学べる」方法を試す
最近の教育心理学では、
「体を動かしながらの学習(ボディラーニング)」が
記憶の定着に有効だとされています。
たとえば:
- 立って書くホワイトボード学習
- 歩きながら暗唱する
- 手を動かして図を描く
「動く=集中できない」ではなく、
「動くことで集中が持続する」子も多いのです。
🧩 学校との連携も大切
学校では、次のような配慮が有効です。
- 席を後ろや端にして、立ち歩きが気にならない配置に
- 授業中に“体を動かせる役割”を与える(黒板消し、プリント配りなど)
- 支援コーディネーターやスクールカウンセラーへの相談
教師が「動き」を“困りごと”ではなく“特性”として理解してくれると、
子どもも安心して過ごせるようになります。
🧠 発達の見通し:「多動」は“成長とともに変化する”
多動性は、成長とともに形を変えていきます。
心理学的にみると、
- 「多動」は小学生期にもっとも強く表れる
- 中学生以降は「衝動性」「注意の持続の難しさ」が中心になる
- 成人期には「考えが多すぎて疲れやすい」など、内的多動に変化
つまり、
**「動く子ども」→「考える大人」**へと変わっていくのです。
☕ 親が意識しておきたい3つのこと
🌼 ① 「落ち着く=止まる」ではない
多動の子にとっての「落ち着く」は、
**“動きを自分で選べるようになること”**です。
完全に静かにすることが目的ではありません。
“動くことと落ち着くことを両立できる”ようになることを目指します。
🌸 ② 「我慢させる」より「理解する」
「ちゃんと座りなさい」と言われ続けると、
「自分はダメな子だ」と感じてしまいます。
まずは「動きたい気持ちは自然なこと」と伝えたうえで、
「どうすれば困らずに過ごせるか」を一緒に考えるスタンスが大切です。
🌙 ③ 「将来への希望」を忘れない
多動だった子どもが、
大人になってから集中力・行動力・創造性を発揮するケースは多くあります。
動きが多いということは、
**“エネルギーの源が強い”**ということ。
この力は、方向を間違えなければ、
社会で大きな力になります。
🌸 まとめ
- 多動は「悪いこと」ではなく「脳の発達途中の姿」。
- 成長とともに、外の動きが内側の集中へと変化していく。
- 家では「動ける環境づくり」「切り替えの練習」「短い集中」でサポート。
- 学校とは「席の位置」や「役割づくり」で協力を。
- 親は「止める人」ではなく「エネルギーの方向を導く人」。
💗 読者へのメッセージ
お子さんの「走り回る姿」を見て、
「このままで大丈夫なのか」と不安になる気持ち――
とてもよくわかります。
でも、“動きたい”というのは、生きるエネルギーそのものです。
落ち着きは「静けさ」ではなく、「自分をコントロールできる力」。
時間をかけて、少しずつその力が育っていきます。
どうか焦らず、
お子さんの“動きの中の成長”を一緒に見守っていきましょう。
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