― 発達特性を理解し、「怒り」を学びに変えるサポート ―
こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今回は、50代の男性から寄せられたご相談をご紹介します。
小学生の息子さんが、感情をコントロールできずにお友達をたたいてしまったり、
癇癪(かんしゃく)を起こして授業が受けられなくなることがある――
という内容です。
家庭でも怒りが強く出て、
爪の皮をむしり続けたり、大声を出してしまうことがあるとのこと。
「感情のコントロールはどう教えたらいいのか?」
という悩みは、発達特性(はったつとくせい)のある子を育てる親御さんの共通のテーマです。
💬 ご相談内容
小学生の息子がいます。
感情をコントロールできなくなると、
お友達をたたいてしまったり、癇癪を起こして授業を受けられなくなることがあります。
家でも、イライラしたときに爪の皮をむしり続けたり、
大声で叫んでしまうことがあります。
どうすれば感情をうまくコントロールできるようになるのでしょうか?
発達障害があると、このような気持ちのコントロールはどう教えたらいいのか悩んでいます。
🧠 回答:感情のコントロールは「生まれつきの力」ではなく「育つ力」
まず最初にお伝えしたいのは、
「感情をコントロールできない=問題児」ではないということです。
発達特性のある子どもにとって、感情のコントロールは**“できない”ではなく“まだ育っていない”スキル**です。
心理学では、この力を**情動調整(じょうどうちょうせい)または自己制御(セルフレギュレーション)**と呼びます。
この能力は、脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)や扁桃体(へんとうたい)といった部分が関係しており、
発達のスピードには個人差があります。
🌿 感情コントロールが難しい理由
① 脳の情報処理が“感情優先”になりやすい
発達特性のある子どもは、外部からの刺激(音・光・人の表情など)を強く感じやすい傾向があります。
そのため、脳が「危険」と判断しやすく、怒りや不安が爆発的に出やすくなります。
つまり、怒りや癇癪は「危険から身を守るための反応」でもあるのです。
② 「ことばで表現する」より「行動で表す」段階にいる
言葉で「イライラする」「悲しい」「困っている」と伝えるのは、
実は高度な認知スキルです。
感情を表す語彙(ごい)がまだ育っていないと、
子どもは「言葉の代わりに行動」で伝えようとします。
たとえば:
- 怒って手を出す → 「助けて」「やめて」のサイン
- 爪をむしる → 「落ち着きたい」「不安を抑えたい」行動
- 叫ぶ → 「どうしていいかわからない」混乱の表現
③ 「自分でも止められない」感覚を経験している
本人も「怒りたくないのに怒ってしまう」と感じていることが多いです。
そのため、叱られることでさらに自己否定が強まり、
「もうどうせダメだ」と感じてしまうことがあります。
だからこそ、「感情を否定しない」関わり方が大切です。
🎒 家庭でできる実践的なサポート方法
🪴 ステップ① 「感情の温度計」を一緒に作る
感情を数値で表す方法は、心理教育の現場でもよく使われます。
紙に0〜10までの数字を書いて、
「怒り」や「イライラ」のレベルを一緒に決めましょう。
- 0:落ち着いている
- 3:少しモヤモヤする
- 5:イライラしてきた
- 8:もう怒りそう
- 10:爆発!
感情を「見える形」にすることで、
本人も「自分の変化」に気づきやすくなります。
💬 ステップ② 「怒りの信号」を言葉にする練習
「手が熱くなる」「心臓がドキドキする」「声が大きくなる」など、
怒る前のサインを一緒に見つけておきましょう。
この“気づき”の段階が、感情をコントロールする最初の一歩です。
たとえば:
「ドキドキしてきたときは、深呼吸を3回してみようね」
など、**具体的な「対処スイッチ」**を一緒に作っておきます。
🌸 ステップ③ 「落ち着ける場所」を準備する
怒りが強く出るときは、「場を離れる」ことが最も効果的です。
- 部屋の一角に「クールダウンスペース」を作る
- 柔らかいぬいぐるみ・静かな音・落ち着く照明を用意
- 「怒ったらここに行ってもいい」と約束しておく
叱るのではなく、「落ち着く時間を持つこと」を習慣にします。
☕ ステップ④ 「落ち着いたあとに振り返る」
感情が落ち着いてから、静かな時間に振り返りましょう。
「どんな気持ちだった?」
「どうしたかったのかな?」
「今度はどうしたらいいと思う?」
このとき、叱責ではなく対話が大切です。
親が「考える手助け」をしていくことで、
少しずつ“自分の気持ちを分析する力”が育ちます。
🌿 ステップ⑤ 「怒りの裏側」を理解する
怒りは、必ず別の感情を守っています。
- 「不安」「悲しみ」「くやしさ」「恥ずかしさ」
これらを一次感情といい、怒りはその上に生まれる二次感情です。
たとえば:
「本当はうまくいかなくて悔しかった」
「失敗した自分を見られるのが恥ずかしかった」
怒りの奥にある感情を見つけていくと、
子どもが「自分の気持ちを理解できる」ようになります。
🧠 心理学的背景:「感情のコントロール」は脳の成長とともに育つ
脳科学の研究では、前頭前野(ぜんとうぜんや)の発達は20代前半まで続くとされています。
つまり、小学生の段階では、まだ「感情のブレーキ」をかける力が未成熟なのです。
ADHDやASD傾向のある子どもでは、
この前頭前野と扁桃体のバランスが取りにくく、
感情がすぐに行動に出やすい特徴があります。
だからこそ、
- 「怒らないようにする」ではなく
- 「怒りを調整する練習を重ねる」
という長期的な視点が必要です。
🎈 学校や支援機関との連携
家庭だけで抱えず、学校と情報を共有することも大切です。
- 「怒りやすい場面」「落ち着ける方法」を先生と共有
- 支援員・スクールカウンセラーに相談
- 必要に応じて発達外来での感情調整プログラムを活用
学校でのサポートが入ることで、
「家庭と学校で一貫した支援」が行いやすくなります。
☀️ 親が心に留めておきたいこと
🌼 ① 「怒りをなくす」ではなく「扱えるようになる」
怒りそのものは悪い感情ではありません。
怒りは「不当な扱いを受けた」「困っている」という
SOSを伝える大切なサインです。
🌙 ② 「親も落ち着く時間を持つ」
子どもが暴れたり叫んだりすると、
親も一緒に感情が高ぶりやすくなります。
その場で無理に諭そうとせず、
まずは深呼吸や離席で、親自身もクールダウンする時間を持ちましょう。
💗 ③ 「少しの成長を見逃さない」
たとえ以前より1回でも冷静に行動できたなら、それは大きな進歩です。
感情のコントロールは「できる/できない」ではなく、
**“少しずつ育っていく力”**なのです。
🌸 まとめ
- 感情のコントロールは、教えるのではなく「一緒に育てる」もの。
- 脳の発達や特性によって、怒りや不安が強く出やすいことを理解する。
- 感情の見える化・クールダウンスペース・振り返りが効果的。
- 怒りの裏には「悲しみ」「不安」などの本音がある。
- 親も一緒に落ち着きを学び、少しずつ自信を育てていく。
💗 読者へのメッセージ
子どもが感情的になると、
親としてどう関わればいいのか迷うことも多いと思います。
でも、怒りは「悪いこと」ではなく、
「助けて」のサインでもあります。
お子さんが怒りや不安を表に出せるのは、
「お父さんになら見せてもいい」と思っている証拠。
焦らず、責めず、
「一緒に学んでいこう」という姿勢で寄り添うことが、
感情の育ちを支える最も確かな方法です。
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