― 発達特性をふまえた「片づけの教え方」と親の関わり方 ―
こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今回は、40代のシングルマザーの方から寄せられたご相談です。
「整理整頓ができない」「プリントがぐちゃぐちゃ」「提出物が見つからない」――
こうした困りごとは、思春期の子どもにとってよくあることですが、
特に発達特性(はったつとくせい)をもつ子どもでは、脳の働きの特性が深く関係しています。
💬 ご相談内容
娘が整理整頓(せいりせいとん)がとても苦手です。
学校から持ち帰るプリントはいつもぐちゃぐちゃで、
必要な書類が見つからなかったり、提出物を出し忘れたりします。
見かねて私が整理整頓をしてあげたのですが、
「きれいにまとまりすぎて、何がどこにあるかわからない!」と怒られてしまいました。
どうすれば、自分で整理整頓ができるようになるのでしょうか?
🧠 回答:整理整頓の苦手さは「意欲」ではなく「脳の仕組み」
まずお伝えしたいのは、
整理整頓が苦手なことを「怠け」「だらしない」と捉えないでほしい、ということです。
発達心理学・神経心理学の研究では、整理整頓の苦手さは
**実行機能(じっこうきのう)**の特性によるものとされています。
💡 実行機能とは?
実行機能とは、脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)で行われる「考えて行動する力」のことです。
- 情報を整理して分類する
- 優先順位をつける
- 一度に複数のことを処理する
- 計画的に行動する
これらの能力がまだ発達途中だと、
「どこに何を置いたか」「どれを先に出すか」の判断が混乱しやすくなります。
ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子どもでは、
この実行機能のアンバランスが特によく見られます。
🌿 娘さんが「きれいすぎてわからない」と感じた理由
あなたが丁寧に整理してくれたのに、
娘さんが「わからない」と怒ってしまったのは、
実は自然な反応でもあります。
彼女にとっては、
“自分の頭の中の整理の仕方”と“現実の整理の仕方”が一致していないのです。
心理学的にいうと、
これは「自己参照的記憶(じこさんしょうてききおく)」のズレ。
つまり――
「自分の思考の流れとリンクしていない整理方法」では、
どんなに整っていても“意味のない空間”になってしまうのです。
🧩 整理整頓が苦手な子に共通する3つの特徴
1️⃣ 全体像をつかむのが苦手
→ どこから手をつけていいかわからず、途中で混乱。
2️⃣ 視覚的情報が多いとパンクする
→ 色・形・紙の種類などが多すぎると頭が疲れてしまう。
3️⃣ 完璧を求めて手が止まる
→ 「どうせすぐ崩れる」と思い、最初からやる気をなくす。
この3つを理解したうえで、「子どもに合った整理の仕組み」を一緒に作ることが大切です。
🎒 実践ステップ:家庭でできる整理整頓サポート
🪴 ステップ① 「子どもの“脳の地図”に合わせる」
まず、親がやる整理ではなく、
子どもが理解しやすい分類に合わせることがポイントです。
たとえば:
- 「教科別」ではなく「今日使ったプリント」「提出予定」「いらない」に分ける
- 「ファイルに閉じる」よりも「トレーに置く」「色分けした箱に入れる」など
- 「時間順」ではなく「感覚順」(よく見る・あまり見ない)で配置する
整理の目的は“整えること”ではなく、“自分で探せること”。
「きれい」より「わかる」が優先です。
📚 ステップ② 「見える収納」にする
子どもは「見えない場所=存在しない」と認識しやすい傾向があります。
- 引き出しより、透明ケースやオープン棚
- ファイルより、立てたボックス
- ふせんやラベルで、色と文字をセットで表示
例:
🟦提出するもの
🟩持ち帰りプリント
🟨確認中
視覚優位の子どもには、このような**“色の地図”**が特に効果的です。
🗂️ ステップ③ 「1日5分の“リセットタイム””」
一度に片づけようとすると疲れてしまうため、
1日5分だけ“机まわりリセットタイム”を設定します。
- タイマーを使って「5分でできることだけ」
- 親も一緒に机を整える(共同作業の形式)
- 終わったら「きれいになったね」と必ずフィードバック
小さな成功体験が「片づけ=達成感」に変わります。
✋ ステップ④ 「手順を“見える化”する」
手順を文字や図で可視化することで、
「何をどうすればいいか」がわかりやすくなります。
例:
① プリントを全部出す
② 提出するものを右、家に置くものを左
③ 捨てる紙はゴミ箱へ
④ ファイルに戻す
これを紙に書いて、机やファイルの近くに貼ると、
子どもが自分でチェックしながら進められます。
💬 ステップ⑤ 「親は“整える人”ではなく“仕組みを作る人”」
親が代わりに片づけてあげると、
一時的には整いますが、
「自分で管理する力」が育ちません。
親の役割は“代わりにやる”ことではなく、
“整理しやすい環境”を設計することです。
たとえば:
- プリント置き場を一箇所にする
- 色・形・場所を固定する
- 「とりあえず置き場」を作って、後で一緒に整理
「できない」ではなく「仕組みが合っていない」と考えるのがコツです。
🧠 発達心理学的背景:整理整頓と自己調整力
整理整頓がうまくいかない背景には、
「ワーキングメモリ(作業記憶)」の弱さも関係しています。
ワーキングメモリとは、
“今やっていることを覚えながら次のことをする力”。
たとえば、
「このプリントを見て、ファイルを取って、分類して……」という
複数の手順を頭の中で維持するのが難しいのです。
したがって、
「整理できるようにする」ためには、
単に“やり方を教える”だけでなく、
**記憶を助ける工夫(視覚・音・繰り返し)**が必要になります。
☕ 親が意識しておきたい3つのこと
🌸 ① 「本人のやり方」を尊重する
きれい・効率的よりも、本人が“わかる”方法を優先。
多少乱雑でも、「自分なりの秩序」を見つける過程が成長につながります。
🌼 ② 「失敗を責めず、仕組みを見直す」
「またぐちゃぐちゃになってる!」と叱る代わりに、
「このやり方、ちょっと使いにくいかな?」と一緒に修正していく姿勢を持ちましょう。
🌙 ③ 「完璧を求めない」
整理整頓が苦手な子にとって、
“そこそこ整っている”で十分です。
「自分でできた」という感覚が、
次の行動へのモチベーションになります。
🌸 まとめ
- 整理整頓の苦手さは「意志」ではなく「脳の実行機能」の特性。
- 「きれいにしすぎてわからない」は、本人の記憶構造の違いによるもの。
- 親は“片づける人”ではなく“仕組みを作る人”。
- 色分け・見える化・小さなリセットタイムが効果的。
- 完璧を求めず、“できた”経験を積み重ねることが大切。
💗 読者へのメッセージ
整理整頓が苦手なお子さんを見ていると、
「もう少し頑張ってくれたら」と感じることもあると思います。
でも、それは「やる気がない」わけではなく、
“脳の整理のしかた”が少し違うだけ。
お子さんが「自分のペースでわかる仕組み」を手に入れたとき、
片づけは“叱られること”から“できる喜び”に変わります。
焦らず、比べず、
あなたの優しいサポートが、確実にお子さんの力を育てています。
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