― ADHD・ASDグレーゾーンの子どもに必要な「制限」ではなく「支援」 ―
こんにちは。心理カウンセラーの伊藤憲治です。
今回は、30代の女性から寄せられたご相談をご紹介します。
現代の子育てでは、スマホやタブレットとの付き合い方が
親にとって大きな悩みの一つになっています。
特に発達特性(はったつとくせい)のあるお子さんの場合、
依存のように見える行動の背景には、脳の特性や安心感の調整が深く関係しています。
💬 ご相談内容
小学校低学年のときに、ADHDとASDグレーゾーンの診断を受けた娘がいます。
最近、スマホやタブレットばかり見ています。
時間制限をかけても、どこでわかるのかロックを解除して隠れて見ています。
注意してもやめず、見続けています。
見ている内容は特に問題があるものではありませんが、
ニュースで「脳が萎縮(いしゅく)する」「発達に悪影響が出る」と聞くたびに、とても心配になります。
無理に取り上げたり、強く叱ったりはしたくありません。
このような場合、どのように対応すればよいでしょうか?
🧠 回答:スマホに「依存」するのではなく「安心」を求めている
まず最初にお伝えしたいのは、
お子さんがスマホを手放せないのは、意志の弱さではないということです。
発達特性のある子どもは、脳の「報酬(ほうしゅう)系」と呼ばれる部分が
刺激や達成感に強く反応する一方で、抑制や切り替えを司(つかさど)る前頭前野の働きがまだ未成熟です。
つまり、スマホの光・音・動画などの刺激は、
「快(ここちよさ)」を過剰に引き出してしまいやすいのです。
1️⃣ スマホ使用がやめられない「脳のメカニズム」
米国スタンフォード大学の研究(2019)では、
長時間のスクリーン利用は報酬系ドーパミン回路を過剰に活性化させ、
“もう少し見たい”という欲求が抑えにくくなることが示されています。
また、発達神経科学の視点からは、
ADHDやASD傾向のある子どもは
「興味の対象が限られる」「注意の切り替えが苦手」などの特徴があり、
一度はまった対象に集中しすぎる(ハイパーフォーカス)傾向があります。
このため、制限よりも「環境デザイン」が重要になります。
2️⃣ 「やめさせる」より「環境を整える」
強く止めようとすると、子どもは「取り上げられたストレス」を感じ、
かえってスマホへの執着が強くなることがあります。
大切なのは、「どう使うか」を一緒に設計すること。
たとえば次のような工夫が効果的です👇
🌿 家庭でできる具体的な対応方法
📱 ① 使用ルールを「親が決める」ではなく「一緒に作る」
時間制限を一方的に設定するより、
「どうすれば気持ちよく使えるか?」を一緒に考えることがポイントです。
例:
- 平日は30分以内・休日は1時間以内
- 学校の準備が終わったら使う
- 夜9時以降はリビングに置く
そして、紙に書いて見える場所に貼ると、ルールが“家族の約束”になります。
⏰ ② 「やめ時」を知らせる視覚的サインをつくる
発達特性のある子どもは、「時間の感覚をつかむこと」が苦手です。
- キッチンタイマーやスマートウォッチで残り時間を見える化
- 「あと3分」「あと1分」と段階的に知らせる
- 終了後に“楽しい切り替え”を用意(おやつ・会話・ペットの散歩など)
この「切り替えの練習」を繰り返すことで、
自分で制御する力(実行機能)が少しずつ育ちます。
🌙 ③ 「視覚刺激を減らす時間帯」を決める
寝る前の1時間は、できるだけブルーライトを避けましょう。
研究では、ブルーライトは**メラトニン(睡眠ホルモン)**の分泌を抑え、
睡眠の質を下げることが分かっています。
リビングの照明をやや暗くする、
BGMを落ち着いた音楽にするなど、
「夜は自然に落ち着く」環境を整えることが、
スマホ時間の短縮にもつながります。
🧩 ④ 「安心の代替手段」を増やす
子どもがスマホを手放せない背景には、
「安心」や「達成感」を得る機会の少なさがあります。
- 図鑑やボードゲームなど、興味を刺激するアナログ遊び
- 家族と一緒に料理・散歩・工作などの“実体験”
- 「一緒に動画を見よう」と共有する使い方
「やめさせる」より「ほかの安心を増やす」が、
依存的行動を減らす近道です。
☀️ ⑤ スマホ使用を「観察」するスタンスを持つ
親が“監視”すると反発しますが、“観察”は信頼を残します。
- 何を見ているのか
- どんな時間帯に使うのか
- どんな気分のときに手に取るのか
これを観察しておくと、
「疲れたときに動画を見る」「嫌なことがあったあとに触る」など、
ストレス解消手段として使っているケースに気づけます。
🧠 「脳が萎縮する」という報道への正しい理解
テレビやネットでは、「スマホ依存で脳が萎縮する」という見出しを
目にすることがあります。
実際のところ、現時点での科学的な結論はこうです。
- 長時間のスクリーン使用によって、脳の一部(前頭前野・海馬など)の発達が遅れる可能性が指摘されている。
- ただしこれは「依存レベル」の長時間使用に限られる。
- 1日1〜2時間の利用であれば、明確な悪影響は確認されていない。
(参考:日本小児科学会「子どものメディア使用に関する提言」2023年)
つまり、重要なのは“量”よりも“使い方”です。
親子で対話的に使う時間(調べ物・一緒に動画を見るなど)は、
むしろ言語発達や社会性の刺激になるという研究もあります。
💬 発達特性のある子に特に意識したい3つの視点
1️⃣ 「制限」ではなく「構造化」
→ 使う時間・場所・内容を明確にして、見通しを立てやすくする。
2️⃣ 「禁止」ではなく「協働」
→ 一緒にルールを作ることで、反発よりも主体性を育てる。
3️⃣ 「管理」ではなく「信頼」
→ 親が安心して見守る姿勢を見せることで、自己調整力が育つ。
🎒 学校や支援機関との連携も活用
もし日常生活に支障が出ている場合は、
学校や発達支援センターに相談してみるのもおすすめです。
- ICT支援員によるデジタルリテラシー教育
- 特別支援コーディネーターへの相談
- 放課後等デイサービスでの「デジタルとの付き合い方」プログラム
家庭だけで抱え込まず、第三者の視点を入れることが、
お子さんのペースに合った支援につながります。
☕ 親が心に留めておきたいこと
親にとって、「制限を破られる」「注意してもやめない」という状況は
とてもストレスのかかることです。
けれど、
「子どもは悪いことをしている」ではなく、
「子どもが落ち着く方法を探している」と視点を変えると、
関わり方のエネルギーがやわらぎます。
「見てはいけない」ではなく、
「一緒にどう使おうか」を合言葉にしていきましょう。
🌸 まとめ
- スマホをやめられない背景には「脳の報酬システム」と「安心の不足」がある。
- 制限よりも、環境と使い方の構造化が効果的。
- 「脳が萎縮する」は依存レベルの話であり、通常の使用では過度な心配は不要。
- ルールは親子で一緒に作る。
- 「やめさせる」より「支える」ことで、自己調整力が育つ。
💗 読者へのメッセージ
スマホやタブレットとの付き合い方は、
現代の子どもたちにとって「新しい発達課題」といえます。
大切なのは、「使う・使わない」の二択ではなく、
**「どう使うかを一緒に考える関係」**を築くことです。
あなたの穏やかな見守りが、
お子さんの「自分でコントロールできる力」をゆっくりと育てていきます。
焦らず、信じて、一歩ずつ。
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